
企業の社会的な責任(CSR=Corporate Social Responsibility)への関心が高まっている。特にヨーロッパではコンプライアンスよりCSRを重視する流れが強まっているほか、日本政府もCSRを推進するため、「安全・安心で持続可能な未来に向けた協働戦略」を策定しようとしている。企業では環境やコンプライアンスを中心としたCSR報告書を作っているところは多いが、日弁連は人権や雇用といった社会的分野までも盛り込んだ総合的なCSRが必要だとする初めてのCSRガイドラインを作成し、6月20にはそのセミナーを開催。本格的なCSR時代に向けて一石を投じた。ややもすると社会貢献や環境保護活動のPRになりがちなCSRだが、世界的に見るとそれは少し違っていてもっと広く深く真剣にテーマに取り組まなければならないようだ。
ガイドラインで、CSRを求める流れについて「推進する動きの一つとして、社会的責任投資(SRI=Social responsibility Investment
)が挙げられる。欧米ではSRIが無視できない動きとなっており、日本でも投資先のCSRへの取り組みを選択基準とするファンドが出現し、年金運用に関しても徐々にSRIの考え方が広がってきている。さらには、SRIを社債や新株発行の際の基準や上場基準にあてはめようとする動きも海外では広がってきている。企業の社会的責任は、単に個々の企業の問題だけではなく、サプライチェーンにも及ぼうとしている。グローバル企業である電子工業界では、EICC(
電子業界行動規範)というサプライチェーンを含む行動基準が作られている。また、国際標準化機構(ISO)がISO26000という、社会的責任(SR)についての規格を作りつつある)と述べ、国際的な企業の社会的責任を求める動きが急であることを指摘している。
その上で、「多くの企業がCSR報告書、持続可能性報告書などの名称で、環境保護など多岐にわたる取り組みの内容を毎年公表しているが、企業の社会的責任は法令等の遵守や環境分野における取り組みだけではなく、人権、労働などの社会的分野における取り組みをも重視するものであり、わが国の企業の報告書はこのような社会的側面に関する取り組みとその公表内容に関してはまだ十分とはいえない」とし、「このガイドラインでは、企業の社会的責任として取り組むべき課題とともに、報告書において情報の開示を行う際に必要と考えられる開示項目を明らかにした。さらに日本の法令や諸規則等の遵守にとどまらず、国際条約、協定、政府間の合意文書、国内的なソフトローといわれる各種の規範やそれを具体化したガイドライン、指針などを基礎とし、これに日弁連の意見を加えてまとめた」とガイドライン作成のポイントを示した。
ガイドラインでは、CSRの内容を @全体 Aコンプライアンス・内部統制 B環境 C雇用・労働 D人権 E公正な事業活動 F社会開発・地域貢献 G消費者 −に分類。それぞれについて企業に求められる取り組みとその理由を示し、CSR報告書に記載すべき事項や留意点を挙げている。もちろんガイドラインは共通的なところを記載しているので、各企業は業種、業態、事業規模によって創意工夫して取り組むよう求めている。例えば、基礎的項目としてはまず経営者のコミットメント(誓約)で、CSR報告書を作る目的、目標、課題などを自分の言葉で総括し、継続的な取り組みを対外的に誓約する。具体的な認識と方向性が明確に意識されていることが必要となる。また、コンプライアンス・内部統制では、経営トップによるコンプライアンスを徹底する旨の表明、取締役のコンプライアンスを確保する体制、使用人のコンプライアンスを確保する体制、企業集団における業務の適正を確保するための体制、監査役が実効的に監査を行うための体制、サプライチェーンおよび顧客企業のコンプライアンスに対する配慮−について企業に求められる理由と報告書への記載内容が示されている。
雇用・労働では、その企業の雇用の種類や雇用契約及び地域別の総労働力の内訳、従業員の総離職数と離職率の年齢・性別による内訳、正規雇用従業員と非正規従業員(
パート社員・派遣社員・アルバイト社員)の賃金等の比較、労働組合の組織率、労働協約の有無、労働条件の決定・変更に際する労働組合・従業員との協議など、労働安全衛生管理体制、業務上疾病・災害の有無や発生率、雇用者の健康診断の受診率や設備・装置に関するリスクアセスメント、深刻な疾病、教育研修、評価制度、多様性及び機会均等(女性、障害者、高齢者、外国人)、ワークライフバランス及び仕事と家庭の両立・次世代育成、児童労働、強制労働の15項目を挙げている。
公正な事業活動では、反社会的勢力の排除や贈賄などの腐敗防止、公正な取引競争などについて、行動規範や社内の監視体制などが構築されていることとそれらの公表が求められる。とにかく公明正大な企業活動を保証する体制の構築とその具体的姿の公表が必要となるので、企業の裸の姿をさらすことになる。コンプライアンスどころの騒ぎではない。ここまで求めないと信用ができないということかも知れないが、CSRにスライドしてきていることは間違いなく、動向に注目することが必要である。
石田 哲夫
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