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企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】 07年度中国の知財権侵害判例集から〈1〉
企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】 	司法界も今、大きく変わりつつあります。裁判、司法行政の現場を見つめ続けてきたジャーナリストがその動きを読み解き、今の、将来の実務に役立つコラムです

企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】  特許庁はジェトロに委託して作成している、各国での知的財産権侵害をめぐる裁判・事例集の2007年度版を公表した。今年度は韓国と中国版が作成された。07年度中に言い渡された判決を中心に掲載されている。膨大な量になるので、日本企業に有効そうな中国の判例を5回に渡って紹介してみたい。中国は今年中に、世界公知公用の導入、均等論を含む権利侵害の判断基準の法定化、意匠要件への創作性の導入、権利侵害への行政取り締まりの強化、累犯者への加重罰などを盛り込んだ第三次専利法(特許・実用新案・意匠法)改正を予定。来年には商標法の改正も準備されている。模倣天国という汚名は返上できていないが、巨大大国は確実に変貌し続けており、判例もめまぐるしく変わっているので、こまめなチェックが必要であろう。

 【ファイザー・アイルランド・ファーマシューティカルズが国家知的財産権局特許再審査委員会を訴えた特許無効審判取消行政紛争事件】  
《争点:特許明細書における保護請求対象の発明創造の公開が十分であったか否か》

(1)事実関係=第三者である12の企業は、2001年 9月から 11月にかけて、特許再審査委員会に対し、ファイザー社の保有する男性の勃起不全(ED)治療薬の特許権の無効審判を請求。同委員会は、口頭審理を行い、関連分野の一般技術者が係争の特許明細書に記載されている内容に基づいても、創造的労働を費やさなければ権利請求の中の化合物が確実に治療効果を有すると確信することはできないと判断し、この発明特許権の無効審判を下した。ファイザー社は、これを不服として北京市第一中級人民法院に当該無効審判の取消を求めて行政訴訟を提起した。

(2)第一審判決=一、 特許再審査委員会の無効審判を取り消す 二、 特許再審査委員会は、当該発明特許についての無効審判の申立につき、改めて審査決定せよ 第一審・北京市第一中級人民法院は、次の通り判示した。 本件における係争の特許明細書は、段階方式により第 1相から第 5相までの化合物の範囲を提示しているところ、優先相の確定は発明目的の実現と密接に関係しているものであり、その基準は一致するはずであることから、本件関連分野の技術者は、第 5相の化合物の治療効果が最も優れているということを当然に理解できる。ところで、本特許明細書には、第 4相の「特に好ましい」として選出されたある化合物の生体外実験及び臨床試験結果が記載されている。すなわち、特に好ましいと選出されたある化合物が ED男性に勃起を誘発させたということである。第 4相の化合物は 100種以上あり、また明細書には具体的にどの化合物から上記結果を得られたかについての明確な記載はないが、一般的な状況においては、明細書に提示された具体的な化合物のデータまたは試験結果は、比較的効果の高い化合物によって得られたものである。このことから、特に好ましいと選出された第 4相の化合物は、生体外および生体内活性を備えていることがわかる。
明細書に提示された第 5相の化合物は、特に好ましい個別の本件発明化合物であり、その 9種の化合物は構造が類似しており、その薬理活性は類似しているはずであり、本件関連分野の技術者が、かかる92種の化合物のうちの 1つである本件特許の権利請求化合物が明細書に記載される治療効果を備えていると確定することは合理的であり、さらなる創造的労働を費やす必要はない。特許再審査委員会が、無効審判において、治療効果と第 5相の化合物及び権利請求化合物とは関連性が乏しく、第 4相の化合物の中から権利請求化合物を選別し、かつ治療効果があることを確認するには創造的労働を費やさなければならないと認定したことは、前述の状況を軽視しており、理由が不十分であるため支持しない。また、上記判断に基づき、特許再審査委員会が本件紛争の特許は「特許法」第 26条第 3項の規定に合致しないとした認定は誤りであり、取り消すべきである。

(3)第二審判決=上訴棄却、原判決維持
第二審・北京市高級人民法院は、次の通り判示した。本件特許明細書は、段階方式により第 1相から第 5相までの化合物範囲をそれぞれ提示している。明細書には、具体的にどの化合物から最終結果を得られたかが明記されていない。本件特許の権利請求における化合物は、明細書において公開された 9種の特に好ましい個別の化合物のうちの 1つである。一般的な状況において、明細書に提示された具体的な化合物のデータ又は試験結果は、比較的効果の高い化合物により得られたものである。本件の特許明細書に提示された「特に好ましい化合物」の試験データ及び効果の記述は、確実に第 5相の化合物に該当するはずであり、本件関連分野の一般技術者は、第 5相の 9種の化合物は全てほぼ同様の活性及び効果を備えていると認識することができ、このことから本件特許の効果を確信することができ、選別を行う必要はない。従って、本件関連分野の一般技術者は、第 5相の 9種の化合物の 1種である権利請求化合物が明細書に記載される治療効果を持っていることを合理的に認識できる。明細書に記載された治療効果及び試験データと第 5相の化合物とは関連性が乏しいとした特許再審査委員会の認定は、事実認定に誤りがあり、本人民法院はこれを是正する。

(4)解説=専利法第 56条の規定によると、発明または実用新案の特許権の保護範囲は、その権利請求の内容を基準とし、特許明細書および添付図面を権利請求の解釈に用いることができる。すなわち、明細書は特許の保護範囲を確定する役割を有している。本件の係争明細書は、段階方式によって第 1相から第 5相の化合物の範囲を表しており、かかる表示方法そのものの特徴から、第 5相の化合物が明細書に記載される治療効果を備えていることが明らかであり、これにより、本件関連分野の一般技術者が何らの創造的労働も費やさずに実現できることが認められた。

(5)ポイント=特許再審査委員会の特許無効審判が人民法院により覆されることは、決して珍しいことではない。特許紛争に係わる日本企業としては、特許の有効性が特許再審査委員会と人民法院とで判断が分かれることが決して少なくないことに留意すべきであろう。 石田 哲夫

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