
【C.F.E.B.シスレーと深?市希思汀化粧品有限公司等との知名商品特有の包装に関する権利侵害紛争】
《争点=知名性の判断基準》
(1)事実関係=シスレー社は、美容製品および化粧品を製造、販売するフランスの会社であり、中国においてシスレー社は「sisley」および花の図形の登録商標専用権を有し、使用商品は第 3類の石鹸、エッセンシャルオイル、化粧品等で、登録有効期間は 2000年 3月 9日から 2010年 3月 9日までである。「sistains(希思汀)」ブランド化粧品および美容製品は希思汀公司により 2002年 6月以前に市場にリリースされ、希思汀商行が希思汀公司のアフターサービス・ステーションであり、2003年に成立した富怡希思汀公司が取次販売している。
シスレー社は、「sistains(希思汀)」の製品包装ケース、包装ボトルの外観が自社の「sisley」の包装と類似しているとして、同一の美容製品価格について比較を行ったところ、両製品の販売価格差は数倍余りであった。そこで、シスレー社は、2003年 1月 27日および 2004年 11月 11日に前後して希思汀公司、希思汀商行において、公証のもとで本件にかかわる包装ケース上に富怡希思汀公司販売の表記のある希思汀シリーズ化粧品を購入し、深?市中級人民法院に訴訟を提起した。
(2)第一審判決=シスレー社の請求を棄却する
第一審・深?市中級人民法院は、以下の通り判示した。シスレー社はフランスの化粧品会社であり、その製品が中国大陸部において知名か否かについての挙証責任がある。しかしながら、シスレー社の提出したその「sisley(希思黎)」ブランド化粧品(美容製品)が知名商品であると証明するために用いられる証拠を総合しても、シスレー社は挙証責任を果たしきれていない。
まず、シスレー社による同社製品の広告宣伝の面から考えると、シスレー社は広告を掲載した雑誌の名称と号数を提出しただけで、関連証拠にはかかる雑誌の発行範囲および発行量が示されていない。次に、シスレー社製品の広告投入、製品年間消費額および市場占有率の問題について、シスレー社はその代理店の証明書簡のみを証拠とし、広告契約、広告費用の領収書等の証拠およびこれに関する証拠を欠いている。市場占有率、すなわち同レベルの化粧品市場に占めるランキングおよび販売量の割合等に関する証拠もまた、シスレー社は提出することができていない。シスレー社の代理店が提供した年間販売額は、単独では当該製品の販売量を証明することができず、かつ販売量も単独では当該製品の市場占有率を反映することができないが、市場占有率は商品が知名商品に該当するか否かを考えるための大切な要素の1つである。
さらに、シスレー社の代理店美?公司の証明書簡における「sisley」商品専売カウンター設置に関する部分の内容を信用したとしても、当該商品を置いている百貨店はいずれも国内の数少ない高級ショッピング施設であるが、高級商品が必ずしも知名商品であるとは限らず、国際的な知名商品が必ずしも国内における知名商品とは限らない。シスレー社が全国に設置した専売カウンター数の少なさおよび 2005年の販売スポットが国内 5つの都市のみであったこと、その上場からわずか 3年という状況を総合的に鑑みると、ただ 1通のシスレー社の係争商品と利害関係のある代理店の証明書簡のみに基づき、当該製品の販売量が多く、かつ中国の化粧品市場で一定の知名度を有すると説明するには現実問題として無理がある。以上をまとめると、シスレー社のその「sisley」製品について中国の知名商品であるという主張は支持できない。
(3)第二審判決=一、深?市中級人民法院判決を破棄する 二、希思汀公司、希思汀商行および富怡希思汀公司は、シスレー社特有の包装装飾製品の製造および販売を停止し、シスレー社の本件訴えにかかわる特有包装装飾と同一または類似の包装装飾の使用を停止せよ 三、希思汀公司、希思汀商行および富怡希思汀公司は、本判決の効力が生じた日から 10日以内に権利侵害製品の包装ケースおよび包装ボトルを廃棄せよ 四、希思汀公司、希思汀商行および富怡希思汀公司は、本件判決の効力が生じた日から 10日以内にシスレー社の経済損失 10万人民元を支払え 五、シスレー社のその他の訴訟請求は棄却する
第二審広東省高級人民法院は、以下のとおり判示した。本件紛争の争点の 1つは、シスレー社の製品が知名商品に該当するか否かということである。国内の現行法では知名商品の認定基準に対する具体的かつ明確な規定がないことに鑑み、人民法院は、実際の審理において知名商品を認定する際、次の要素を総合的に考慮しなければならない。@当該商品の販売期間A当該商品の販売区域 B当該商品の売上高 C当該商品の販売対象 D広告宣伝を行った継続期間、程度および地域範囲 E知名商品として保護を受けている状況−等。
シスレー社が第一審人民法院に提出した証拠によると、シスレー社は 2000年 3月 9日にわが国において「sisley」および花図形の登録商標専用権を取得し、第 3類石鹸、エッセンシャルオイル、化粧品等の商品に使用することが認定された。2000年 2月 3日、シスレー社の中国代理店は、中華人民共和国衛生部が認可した「輸入化粧品衛生許可書」を取得し、2002年 8月 22日、シスレー社はわが国の品質監督検査検疫総局が交付した「輸出入化粧品ラベル審査証書」を取得した。賽特集団有限公司等が発行した「証明書簡」によると、シスレー社の「sisley」製品が遅くとも 2001年 10月にはすでにわが国の市場において販売されたことを十分に証明している。シスレー社は輸出契約、輸入通関書等の証拠を提出してはいないが、このことはシスレー社の「sisley」製品がすでにわが国の市場において販売されていた事実を否定するものではないと認定する。
次に、シスレー社の「sisley」化粧品の価格は高く、かかる商品が対象とする消費者の大部分が高所得者であるため、シスレー社が販売を行う場所は自然と比較的高級なエリアに限定される。まさにそれゆえに、シスレー社の「sisley」化粧品の販売量をその他の低所得消費者向けの化粧品の販売量よりも小さくさせている可能性がある。しかし、ここで指摘すべきは、知名商品の認定において、各種の要素、販売量の大小、市場占有率の多寡を総合的かつ全面的に比較することは、その商品が知名であるか否かを判断する上での参考要素に過ぎず、決定要素ではないということである。その他の要素を軽視して、単純にある商品の販売量が少なく、市場占有率が低いことをもって、その商品の知名度が低いこと、知名商品に該当しないことを判断したとすれば、これは公平でなく、実情にも合致しない。
また、シスレー社は、その「sisley」シリーズブランドのわが国における知名度を証明するため、第一審人民法院に対しその製品の広告についての証拠を提出したが、広告を掲載したファッション雑誌は、わが国の知名度を有するファッション、化粧品等のブランドの主要広告媒体であり、比較的大きな影響力を有する。シスレー社は、これらの雑誌に絶えず広告を載せており、客観的にその製品について市場及び消費者の印象の中に比較的高い知名度を形成させている。
本件において権利侵害を訴えられている製品は化粧品であり、シスレー社の「sisley」製品と同種製品である。被提訴製品の包装ケース、包装ボトルの装飾とシスレー社の「sisley」製品の包装の装飾を比べると、「sistains」商標、花のマークのデザイン、産地の「GERMANY」、盾の形に王冠をあしらったデザインの違いのほかは、両製品の包装(包装ボトルおよび包装ケースを含む)の装飾は極めて似ており、両者は視覚の上でも基本的に差異はない。よって、被上訴人が同一の商品上に視覚上基本的に差異のない商品包装装飾を使用することは、関連の公衆に商品の出所につき誤認を生じさせるものであり、すなわち、両者がいずれもシスレー社によって製造されたものであると誤認させ、又は被上訴人と「sisley」製品の経営者であるシスレー社との間に使用許諾又は関連企業の関係等の特定の関係があると誤認させるものであるといえる。よって、被上訴人の行為は「不正競争防止法」第 5条第 2号に定める状況に該当し、不正競争を構成する。
シスレー社は、希思汀公司、希思汀商行において、公証のもとで本件にかかわる希思汀シリーズの化粧品を購入した。その包装ケース上にはいずれも富怡希思汀公司販売の表記があり、希思汀公司、希思汀商行、富怡希思汀公司の行為は共同権利侵害行為を構成し、相応の権利侵害責任を負うべきである。シスレー社は、希思汀公司、希思汀商行、富怡希思汀公司の権利侵害製品の製造および販売の即時停止と権利侵害製品の包装および装飾の廃棄を命じる判決を求めており、かかる訴訟請求には十分な事実と法律上の根拠があるため、本院はこれを支持する。賠償金額の問題については、シスレー社はその権利侵害により受けた経済損失又は希思汀公司、希思汀商行、富怡希思汀公司が権利侵害により得た利益を証明する証拠を提出していないため、本院は、シスレー社の「sisley」製品の知名度、被上訴人 3者の権利侵害期間の長さ、規模およびその主観的故意の程度、シスレー社が権利の保護のために支払った合理的費用等の要素に基づき、情状を斟酌して、被上訴人 3者に対し、シスレー社の 10万人民元の経済損失を共同で賠償する旨を命じる。被上訴人 3者に深?特別区において公開謝罪をすることを求めるシスレー社の訴訟請求については、シスレー社の商業的信用が損失を受けたことを証する証拠がないため、本院はこれを支持しない。以上の通り、第一審判決の事実認定は基本的に明らかであるが、法律の適用が適切でなかったため、これを改める。
(4)解説=「不正競争防止法」第 5条第 2号は、「知名商品特有の名称、包装、装飾を許諾を得ずに使用し、または知名商品に類似する名称、包装、装飾を使用し、他人の知名商品と混同させ、顧客にその知名商品と誤認させること」を不正競争行為であるとしている。
最高人民法院の「不正競争民事案件審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第 1条第 1項第 1文は、「中国国内において一定の市場知名度を有し、関連公衆に知られている商品」は、「不正競争防止法」第 5条第 2号における「知名商品」であると認定しなければならないと規定する。「知名商品」の認定にあたっては、「当該商品の販売時期、販売区域、販売額および販売対象、宣伝を行なった継続時間、程度および地域範囲、知名商品として保護を受ける状況等の要素」を考慮して総合的に判断される(本解釈第 1条第 1項第 2文)。
従来の訴訟実務においては、知名性の立証のために、販売等の書証等を大量に人民法院に提出することが必要とされてきた。
しかし、本第二審判決は、「知名商品の認定において、各種の要素、販売量の大小、市場占有率の多寡を総合的かつ全面的に比較することは、その商品が知名であるか否かを判断する上での参考要素に過ぎず、決定要素ではないということである。その他の要素を軽視して、単純にある商品の販売量が少なく、市場占有率が低いことをもって、その商品の知名度が低いこと、知名商品に該当しないことを判断したとすれば、これは公平でなく、実情にも合致しない」と判示した。
商品の販売量が少なく、市場占有率が低くても、知名性が認められる可能性があることを明らかにした点に、本第二審判決の重要な意義がある。
(5)ポイント=知名商品にかかる「不正競争防止法」第 5条第 2号の保護を受けようとする日本企業にとって、非常に参考になる判決である。判決の論理を利用するためには、知名性が問題となっている当該製品が高級品に属すること等のように、販売量が少なく市場占有率が低くても「知名商品」であるといえる合理的理由をいかに主張・立証するかがポイントとなろう。
石田 哲夫
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