
法曹人口3000人増員計画の見直しが始まる。日弁連の7月内の見直し提言を受けて、法務省が決定することになる見通しだ。そう時間を掛けずに結論がでるが、表現はどうであれ縮小に向かうことは間違いないだろう。そもそも制度設計での予測分析も夢のような話が前提だった。就職難も質の低下も訴訟型社会の是非も、すべて競争社会の原理の中で解決されるかのような幻想に基づいていた。規制緩和万能の幻想からもう目覚めていい。法曹人口の増加も司法改革もそのものは必要である。しかしそれは現実社会と相談しながら行うべきものだ。文化や倫理といった日本の社会規範にも影響を与える変更はいたずらに行ってはいけないのである。修正は当然であり、新聞メディアが弁護士のエゴを理由に見直しを批判するが論点が違うと思う。弁護士5万人時代がもたらすものが本当に望ましい姿か、冷静に見通して正しく日本の司法の将来像を描いてほしいものである。
減員要求の声は単位弁護士会から上がった。しかし、メディアの支持がなく、業界内にふつふつと充満するだけだったが、弁護士の反対論は収まらず、楽勝と見られた会長選で増員推進派の宮崎誠氏も軌道修正を言わざるを得なくなった。このため当選後の宮崎会長にとって、どう軟着陸させるかが課題となっていた。
7月1日、日弁連から各弁護士に「本年度司法試験の合否判定にあたっては,新しい法曹養成制度が未だ発展途上にあることに鑑み,司法改革全体の統一的かつ調和の取れた実現を期するため,2010年頃に合格者3000人程度にするという数値目標にとらわれること無く,法曹の質に十分配慮した慎重かつ厳格な審議がなされるべきである」との法曹人口問題に関する日弁連提言の原案が示された。18日の理事会での正式決定前の異例の広報だった。
前触れはあった。千葉県弁護士会は5月の定期総会で「適正な弁護士人口に関する決議」を行った。内容は日弁連のものより具体的かつ強烈で「@日弁連は、政府に対し2010年以降の年間合格者数3000人という予定の見直しを求めるとともに、適正な法曹人口についての調査・検証を独自に実施し、法曹人口問題について全国の市民に訴え理解を求めるよう努めるべきである A政府は司法試験合格者数について直ちに見直しに着手するとともに、その適正規模についての調査・検証が完了するまでの間、当面年間合格者数を1500人程度とするのが相当である B政府は、充実した司法修習制度を回復するために、修習期間の短縮や修習生に対する給費制の廃止等の政策の見直しに直ちに着手すべきである」の3点を提言した。また、大阪弁護士会も動いたようだ。決議直前までいったが、取りやめた、とされる。過激な決議が続けば収拾が付かなくなってくる。これらの動きを背景にしての正式決定前の広報だったとみられる。
千葉県弁の提言にあるように、法的紛争の増加、弁護士の地域的偏在の是正、諸外国に比べて法曹人口が極端に少ないなどの理由から増員が計画された。しかし、この前提はことごとく違った。まず、需要増はどうなったか。地裁民事通常事件新受件数は2000年をピークに減少傾向が続いている。全裁判所の民事行政事件新受総件数も2003年をピークに減少している。増員の旗を振った経済界はどうだったか。2006年に日弁連が行った組織内弁護士採用動向調査では、6147社の今後5年間の採用予定数はなんと僅か「108〜232人」だった。需要増はまぼろしだったことになる。その結果、弁護士会が必死になって弁護士事務所に新規採用を働きかけたが、「ノキ弁(事務所内独立採算弁護士=軒下弁護士)」や「タク弁(自宅弁護士)」といった新種の弁護士が登場する始末である。もはや新弁護士の就職は人権問題といってもいい。弁護士だけ霞を食っているわけにはいかない。高額弁護士がワークシェアするはずもなく、それこそ正当な競争原理の否定である。新人は年収300万円でも勤められればいい方で、今年の新人は500〜800人があぶれる可能性がある。もう押し込みも限界。さも需要増を引き受けるように胸をたたいた経済界がこの体たらくなのだから、もはやどうしようもない状況なのである。
質の低下は、量が増えれば当然一定率が落ちこぼれるわけで、人数自体に驚きはないが、問題はフォローする体制がないことである。修習期間を短縮し、ロースクールで教えるという話は空論であろう。実務的修習を試験前の学生に教え込むのはかえって時間の無駄である。それなら知識を教えるべき時間だと思う。倫理はある程度教えることはできるだろうが、合格後と前ではやはり心構えが違う。責任を実感しながら、きちんと教わることは重要だと思う。修習が十分できないというのであれば、仕事しながら実務の中で覚えていくしかないが、そのためには先輩弁護士につかなければならない。しかしその余裕のない弁護士事務所が増えているし、ノキ弁やタク弁、社内弁護士はどうするのだろうか。弁護士に依頼するのは慣れている大会社ばかりではなく、中小企業や人生で1回の依頼となる市民である。士業の質的担保は制度の責任であり、人数よりもよほど重要なことである。
外国との比較は、比較のくくり方に疑問があり、にわかには信用できないし、司法制度全般の検証が必要である。また、司法制度は文化や社会倫理感などその国の人々の間に醸成された意識に左右される。主張の文化と相談の文化では自ずと法曹人口の適正数も異なる。単純人口比なんてあまり意味がないことは、少し考えれば分かる話だ。
「ゼロワン(弁護士がいないか1人)地域」解消の問題も、それだけ聞けばそうだそうだと思うかもしれないが、その一方で裁判所の支部は統廃合されていることとどう考えればいいのだろうか。法サービスの過疎化解消を言うなら、弁護士だけ増やしてどれだけ意味があるのだろうかと考えてしまう。
話はガラリと変わるように思われるかもしれないが、英銀行協会会長が6月10日の同協会総会で「レバレッジに依存した(米英の)金融ビジネスモデルは破綻した。銀行は(昔の)基本的な経営に戻るべきである」と述べたことは衝撃的であった。道理は揺るがないが、無理やまやかしは破綻するということではないだろうか。ここ数年で世界は劇的にかわるはずである。新聞の意図的かどうかは別にして誤解や認識不足もある。この問題の関係者は過去のしがらみを捨てて、国民の理解が得られる努力を重ね、真に日本のためになる司法改革を目指してほしいと思う。
石田 哲夫
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