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企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】 《最高裁の旧長銀逆転無罪判決に対する違和感》
企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】 	司法界も今、大きく変わりつつあります。裁判、司法行政の現場を見つめ続けてきたジャーナリストがその動きを読み解き、今の、将来の実務に役立つコラムです

企業法務/知財の最新事情 【リーガルステーション】口頭弁論が行われることになった時点で予想はされたが、やはり出てみると 衝撃的だった。最高裁の日本長期信用銀行(現新生銀行)事件逆転無罪判決である。判決は各メディアなどで詳しく伝えられたので、詳細に触れることはしないが、法律審の立場にこだわり、事実認定を行うことに必要以上と思えるほど抑制的に見える最高裁が一、二審で判断がぶれてもいない事件で破棄自判無罪とするのは極めて異例である。これまでいろいろな事件で最高裁の姿勢を見てきた者としては、どこか違和感がぬぐえなかった。

時代の熱気の中で刑事責任を問わないと社会が収まらないとか、国の全体を見据えて行き過ぎた動きに歯止めをかける必要がある場合がある。おおむねこうした場合の立件は難しく、検察官は事件の構図の組み立てに苦慮する。その結果批判を受けることもあるが、立件できなければそれはそれで非難の対象となるのだ。長銀事件がこうした範疇に入る事件だったことは間違いない。バブル崩壊後、銀行はどこも不良債権の山を抱えた。とりわけ新興企業への融資に軸を転換した長銀は「イ・アイ・イ・インターナショナル」グループなどへの巨額な不良債権を抱えた。行き詰まりの中で、長銀は97年スイス銀行との資本提携に生き残りをかける。

ところが護送船団方式の中で、銀行が関連会社に含み損をかかえた債権を移しても、銀行の積極支援先であれば倒産はないとみて、「破綻懸念先扱い」しないとしてきた旧大蔵省は相次ぐ金融機関の破綻を受けて方針変更。98年4月から早期是正措置を導入、6月には金融監督庁を新設し、同年3月期から「積極支援先でも破綻の可能性が大きければ、破綻懸念先扱いとする」とした。結局長銀は経営破綻に陥り、同年10月、成立した金融再生法の第1号適用を受け一時国有化、約8兆円の公的資金の投入を受けた。同法は破綻した金融機関の旧経営陣の刑事、民事責任追及をうたっていた。「日本発の世界恐慌」を極度に恐れる中で、バブル期に突出した乱脈融資を続けた長銀と日本債券信用銀行が、いわば“社会への落とし前”として事件化された側面はあるだろう。そういう意味では特異ではあるが、社会を揺るがす事案が起きた際には国家の統治システム維持のために過去にも同種の落とし前の付け方は行われている。

粉飾決算を問われたのは、この98年3月期決算。旧大蔵省は97年春から夏にかけて、方針の変更に合わせて資産査定方法や決算経理基準を変更し、金融機関などに通達した。検察は新会計基準で長銀決算を精査し、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)の罪で起訴した。新基準が改正前商法32条2項にいう「公正ナル会計慣行」だったという前提である。一、二審は、「決算当時、(旧大蔵省が97年3月5日付で出した)資産査定通達等で補充される改正後の決算経理基準に基本的に従うことが唯一の公正なる会計慣行であって、改正前の決算経理基準の下での『税法基準による会計処理』では、公正なる会計慣行に従ったことにはならない」として、当時の頭取と副頭取2人の3人に執行猶予付きの有罪を言い渡した。

 これに対し最高裁第二小法廷は、当時の大蔵省の金融行政の変遷とそれに伴う会計基準に関する各種通達の流れを仔細に検討。その上で、(1)資産査定通達等で補充される改正後の決算経理基準は、金融機関がその判断において的確な資産査定を行うべきことが強調されたこともあり、大枠の指針を示す定性的なもので、具体的適用は必ずしも明確となっていない。  とりわけ、いわゆる母体行主義を背景として、一般取引先とは異なる会計処理が認められていた関連ノンバンク等への貸出金についての査定に関しては、具体性や定量性に乏しく、実際の査定が容易ではないと認められる。そのうえ、資産査定通達等で補充される改正後の決算経理基準が、関連ノンバンク等への貸出金についても、同基準に従った査定を厳格に求めるものか否か自体も明確ではなかったと認められる。

 記録によれば
(ア)資産査定通達は定性的かつガイドライン的なものである上、同通達において導入された債務者区分の概念は、例えば「破綻懸念先」の定義において、これまでの資産査定方法を前提とするような表現が含まれている。このため関連ノンバンク等に対する貸出金についての査定に関してまで資産査定通達の趣旨を徹底させるものか否か不明確だった。
(イ)日本公認会計士協会が97年4月15日付で作成した「4号実務指針」には具体的な計算の規定と計算例がないなど償却・引当額の計算は容易ではない。結局、定性的な内容を示すにとどまり、定量的な償却・引き当ての基準として機能するものとはなっていなかった。関連ノンバンク等に対する貸出金についての査定に関してまで、4号実務指針の対象とすることを徹底するかどうか、必ずしも明らかでなかった。
(ウ)資産査定通達や4号実務指針の目指す決算処理のために必要な措置と考えられていた税効果会計が導入されていなかった本件当時においては、改正後の決算経理基準に従って、有税による貸出金の償却・引き当てを実施すると、当期利益が減少し、自己資本比率(BIS比率)の低下に直結して、市場の信認を失い、銀行経営が非常に危なくなる可能性が多分にあった。
(エ)以上のようなことから、98年3月期の決算で、多くの銀行では少なくとも関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関して、厳格に資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準によるべきものとは認識しておらず、現に長銀以外の同期の各行の会計処理の状況をみても、大手18行のうち14行は、長銀と同様、関連ノンバンク等に対する将来の支援予定額については、引当金を計上しておらず、引当金として計上した銀行は4行に過ぎなかった。

 また、長銀およびD銀行の2行は要償却・引当額についての自己査定結果と金融監督庁の検査結果との乖離が特に大きかったものの、他の17行も総額1兆円以上に上る償却・引き当て不足が指摘されていたことなどからすると、当時、資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準はその解釈や適用に相当の幅が生じるものだったといわざるを得ない。 (2)このように、資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は、特に関連ノンバンク等に対する貸出金についての査定に関して、新たな基準として直ちに適用するには明確性に乏しかったと認められる。本件当時、関連ノンバンク等に対する貸出金についての査定に関し、従来の「税法基準」の考え方による処理を排除して厳格に改正後の決算経理基準に従うべきことも必ずしも明確ではなかった。 過渡的な状況下では、これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた税法基準の考え方によって査定を行うことが、資産査定通達等の示す方向性から逸脱するものであったとしても、直ちに違法であったとはいえない。

 二小の法廷意見はこのように述べて、「『公正ナル会計慣行』に反する違法なものとはいえないから破棄しなければ著しく正義に反する」と結論付けたのである。過渡期にあった新会計基準はいまだ周知不十分で浸透しておらず、混乱もしていたので、「公正ナル会計慣行」になっていたとはいえない、という判断である。さらに他の銀行も同じようなことをやっていた、新基準ではBIS基準に引っ掛かる恐れもあった、というのである。だが、粉飾決算は常に経営危機を回避、糊塗するための違法手段であり、「よそもやっていた」も、「BIS」も違法性判断の材料にはなり得ないのではないだろうか。せいぜい有利な情状であろう。混乱があったにせよ、4行は従って新基準で引き当てていたのである。監督官庁の動向は逐一把握していたであろう、日本を代表する巨大行の免罪符になるのだろうか。

 唯一の「公正ナル会計慣行」とは何なのだろうか。今でもめまぐるしく会計基準は変更され、その決算時に有効となる基準にあたふたしながら付いていっているのが現状だと思う。企業決算の性格からして経営者が自分に取って都合のいい基準を使うものではでない。基準の法的規範性すら明確化されていなくとも、その時点で有効な基準に粛々と従うしかないのは、株式を公開している以上仕方がないことであろう。「他に12行も従っていないから」というのでは、交通事故の取り締まりはできなくなる。唯一の「公正ナル会計慣行」だったかどうかをめぐって民事と刑事で判断が分かれていたが、再々あることではないから統一を図る必要性は薄いとはいえ、成立する条件の一般的判断基準も示されていない。行政の混乱が諸悪の根源なら、せめて「意見」など何らかの形で、けじめのつけ方について社会の理解を得るための一言が書かれても良かったのではないだろうか。同様な争点を持つ日債銀事件が後に控えているが、仮に日債銀事件も無罪となれば、個別金融機関の経営判断の誤りを巨額な税投入で救ったバブル後のスキームは、誰も責任者がいないまやかしの闇の中へ消えていくことになる。バブルだから責任も泡と消えるのかもしれないが、統治が不安定になる要素の「支配機構への不信」が刻まれたことは確かだ。



石田 哲夫

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