
「反社会的勢力」。この分かるようで、その実明確な定義は不透明な人間たちとの距離がトレンドテーマになってきた。07年6月、政府・犯罪対策閣僚会議が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」をまとめたのを受け、東証、大証をはじめ警察庁、警視庁も《イエローカード》を切り、統制環境の整備の中で軽視できないようになってきたのである。建て前としては百パーセント同じ言葉が返ってくるが、実際問題としては複雑に絡み合って簡単ではない。歴史的社会構造の側面や思想的な側面も加わるからだ。ただ、今回は、外国人投資家に分かりにくいビジネスと闇勢力の関係の透明化は、マネーロンダリングのチェックと合わせて《外圧》とみられ、ある程度の成果は必須のようだ。法曹とって、これらの勢力はいろいろな意味で《常連》であり、避けて通ることはできない。企業の法務担当者にとっても同じ。先行事例を参考にして注視していくことが必要だと思う。
興味深い事例と感じたのは、スルガコーポレーションの弁護士法違反(非弁活動)事件。新聞報道で事案はご存知の方が多いかもしれないが、少し違う外部調査委員会の調査報告書(中間報告)などを基にまとめてみる。1972年に設立された建設会社のスルガは、その後不動産専有卸事業も始めた。90年に東証2部に上場。不動産専有卸事業は不動産ソリューション事業に発展したが、基本のビジネスモデルは同じ。取得した土地を転売し、後の建築を請け負うもので、建物がある場合には立ち退き交渉を終わらせてからの転売になる。この敷地を真っ更にする、立ち退き交渉を最初は弁護士に依頼していたのだが、1件を仕上げるのに4年も掛かり、資金繰りにも窮することも起きた。03年ごろ、立ち退きを1年でやってくれる会社として共同都心を紹介され、取り引き金融機関に照会。「資本金が5億円もあり、株主には上場会社が名を連ねている」と言われたこともあって、下請けとして立ち退き交渉を委託するようになった。
このころ不動産に強い別のA弁護士の紹介を受けたため、A弁護士に共同都心の業務の監査を依頼した。共同都心はスルガと業務委託契約を結び、自分の下請として光誉実業に委託した。立ち退き交渉の際にスルガから所有権が移ったように見せかける《虚偽の売買契約》を作ったが、A弁護士からは、「虚偽のもので無効」という念書を共同都心から差し入れさせるように提案があったが、立ち退き交渉を共同都心(実働部隊は光誉)に行わせることが弁護士法に触れるとの指摘はなかった。
03年9月1日、立ち退き交渉を行っていたビルの入居者から光誉の社長に逮捕歴があるとの新聞記事がFAXされ、スルガ社員が光誉社長と面談した結果なども踏まえて、A弁護士は上場企業の依託先として社会的に是認される範囲内で交渉を行うように共同都心にきちんと監督させるよう求める意見書をスルガに提出した。これを受け、同月下旬ごろ共同都心、光誉、スルガ、A弁護士の4者の会合が持たれた。この後の10月3日にA弁護士は「共同都心、光誉の立ち退き交渉を監督することは困難。上場企業のコンプライアンスの面からスルガをガードすることができない」として、業務監査の契約を解除。スルガは弁護士を外した契約に変更した。その後光誉に直接委託することもでてきたが、立ち退き交渉は《順調》だった。
そして07年2月か3月ごろ、メーンバンクから「共同都心には問題があるので、取り引きを継続するなら新規融資は難しくなる」と通告を受けた。その際に反社会的勢力との明示的な説明はなかったが、通告を受けたスルガの監査役(銀行出身)らは経験的にそう受け止め、社長(現会長)に報告。共同都心の社長に問い合わせたところ、「以前に別の会社の役員として名義を貸したことがあるだけで、反社会的勢力とは関係ない」と説明された。光誉については銀行からの指摘はなかったため、共同都心との契約は止め、光誉との直接契約は継続することにした。ところが6月になってメーンバンクは「光誉は共同都心よりさらに問題がある」との指摘を受ける。監査役らはこの指摘を法務部社員にも伝えたところ、法務部社員は直ちに担当役員に「光誉との取り引きを打ち切った」との報告書を提出するよう求めた。こうした経緯をへて、両社との取り引きは打ち切られたが、継続案件は光誉の紹介を受けた会社が引き継いだ。そして今年2月、警視庁から協力を求められ、両社の社長ら12人が逮捕された。スルガから両社に支払われた総額は143億1千万円(立退き料、返還敷金など込み)で、スルガは一連の事業で246億3千万円の利益を上げた。
この流れと並行してスルガは07年6月、元警察庁生活安全局長を専務取締役・チーフコンプライアンスオフィサー(現副社長)に、元さいたま地検検事正を社外取締役として迎い入れた。また警察OBも複数雇い入れた。事件が顕在化した今年2月には民暴を手がけてきた著名弁護士ら3人と公認会計士による外部の独立委員会を設置。事件の経過や原因の調査に当たり、中間報告がまとまり、公表した。社内組織の見直しも行い、「反社会的勢力への毅然とした対応に関する基本原則」を策定した。この原則では 被害防止の基本原則として
(1)組織としての対応
(2)外部専門機関との連携
(3)取り引きを含めた一切の関係遮断
(4)有事における民事と刑事の法的対応
(5)裏取引や資金提供の禁止
−の5点を挙げている。そして反社会的勢力対応部署は法務部とし、「反社」情報をデータベース化するなどして一元管理・蓄積し、関係遮断のための取り組み支援、対応マニュアル整備、外部専門機関との連携などを行うと定めた。
大変失礼ながら、スルガから逮捕者を出したわけでもないし、超有名企業と言うわけでもない。光誉、共同都心だけに絞ったこの事件の処理には少し疑問はあるが、昨年の銀行の動き、その後のスルガの様変わり、外部委員会の動きなどを見ると先行モデルのような感じがして仕方がない。「反社」のビジネスとの絡みは建設、不動産ばかりではない。日常的にはもっと関係が深いところがたくさんあるのは誰でも知っている。「すべての関係遮断」となると、他人事ではない企業がたくさんあるはずだからである。
石田 哲夫
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