成年後見人は遺言を代わりに作成できる?本人が作る条件と後見人の役割
「成年後見人 遺言作成」と検索する方の多くは、認知症などでご本人の判断能力が低下している場合に、成年後見人が代わりに遺言書を作成できるのか、あるいはご本人自身がどのような条件を満たせば遺言を残せるのかを知りたいと考えています。司法書士事務所リーガルステーションが、成年後見人と遺言作成の関係、本人が作成できる条件、後見人が担える役割と越えてはいけない一線を整理して解説します。
結論からいうと、成年後見人がご本人に代わって遺言書を作成することはできません。遺言は本人だけが行うことのできる一身専属の行為であり、代理にはなじまないためです。ただしご本人(成年被後見人)は、判断能力を一時的に回復した時に限り、医師2人以上の立ち会いという特別な要件のもとで自ら遺言を作成することができます。

結論|成年後見人は代わりに作成できない、本人が条件を満たせば作成できる

成年後見人には、ご本人(成年被後見人)の財産管理や身上保護についての幅広い代理権が与えられていますが、遺言の作成だけは例外です。遺言は遺言者本人の最終的な意思そのものであり、法律上「一身専属行為」として扱われるため、成年後見人が本人に代わって内容を決めたり、本人の名前で作成したりすることは認められていません。これは後見人が悪意を持っているかどうかとは関係なく、制度上の一線として区切られています。
一方で、成年被後見人であること自体が遺言作成を一律に禁じているわけではありません。民法973条は、判断能力(事理を弁識する能力)を一時的に回復した時に限り、医師2人以上の立ち会いという通常の遺言にはない特別な要件のもとで、本人が自ら遺言を作成できると定めています。後見人の同意や家庭裁判所の許可は、この遺言作成そのものには必要ありません。
成年後見制度とは|後見・保佐・補助と家庭裁判所の役割

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分でない方を法律面・生活面で支える制度です。家庭裁判所が本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」のいずれかを選び、それぞれ成年後見人・保佐人・補助人を選任します。判断能力の低下がもっとも重い場合に選ばれるのが後見類型で、成年後見人には財産管理全般の代理権が与えられます。
成年後見人には、家族が選ばれることもあれば、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることもあります。いずれの場合も、成年後見人の職務は財産管理と身上保護にとどまり、本人に代わって法律行為の一切を行えるわけではありません。婚姻・離婚・養子縁組・遺言の作成など、本人の意思そのものが重視される身分行為・一身専属行為は、後見人の代理権の対象から明確に外れています。
なお、判断能力が低下する前にあらかじめ支援者を決めておく「任意後見」という制度もありますが、これは家庭裁判所が職権で選ぶ法定後見(成年後見・保佐・補助)とは契約の形態が異なります。任意後見人であっても、遺言の代理作成ができない点は成年後見人と同じです。
なぜ後見人は遺言を代わりに作成できないのか|「一身専属」の行為だから
民法962条は、行為能力の制限に関する規定を遺言には適用しないと定めています。これは裏を返せば、遺言をするかどうか・どのような内容にするかという判断は、法定代理人(親権者や後見人)の同意や代理になじまない、本人だけの意思決定であるという考え方の表れです。制限行為能力者であっても、遺言をする時に判断能力(遺言能力)さえあれば単独で有効な遺言ができる一方、逆に後見人がその判断を肩代わりすることも認められていません。
そのため、成年後見人が本人の意向を推測して文案を作成したり、本人の署名を代筆したりする行為は、たとえ善意であっても遺言としての効力を持ちません。第三者による代筆や誘導が疑われる遺言は、後に相続人間の争いの火種にもなりやすく、家庭裁判所や公証人も本人の真意にもとづく作成であることを重視しています。
成年被後見人本人が遺言を作る条件|民法973条の医師2人以上の立ち会い
成年被後見人が自ら遺言を作成するには、通常の遺言の要件(自筆証書遺言なら全文・日付・氏名の自書と押印、公正証書遺言なら証人2人以上の立ち会いなど)に加えて、次の特別な要件を満たす必要があります。
- 遺言をする時点で、判断能力(事理を弁識する能力)を一時的に回復していること
- その場に医師2人以上の立ち会いがあること
- 立ち会った医師が、遺言者が遺言をする時に判断能力を欠く状態ではなかった旨を遺言書(秘密証書遺言の場合は封紙)に付記し、署名・押印すること
この医師の立ち会いと、判断能力を欠く状態ではなかった旨を証明する付記は、後から「遺言をした時点で本人に判断能力がなかったのではないか」と争われることを防ぐための制度です。医師の診断料や手配にかかる費用は医療機関によって異なり、事前に主治医や医療機関へ相談しておく必要があります。判断能力が一時的にも回復する見込みがない場合は、この方式によっても遺言を完成させることはできません。
実際の作成手続きの流れ|医師の手配から公正証書遺言の作成まで
成年被後見人が遺言を作成する場合、一般的には次のような流れで進みます。
- 主治医や医療機関に相談し、判断能力が一時的に回復するタイミングと、当日立ち会える医師2人以上を確保する
- 遺言の内容(誰にどの財産をどれだけ渡すか)の原案を、本人の意思を確認しながら整理し、財産目録として記載する
- 本人確認書類(実印または認印、運転免許証などの身分証明書)を用意し、公証役場に事前相談して作成日時・場所(公証役場のほか、自宅や病院への出張も可能)を調整する
- 作成当日、医師2人以上の立会人のもとで本人が口授し、公証人が公正証書遺言として作成する
- 立ち会った医師が、判断能力を欠く状態ではなかった旨を遺言書に付記して署名・押印し、その証明を残す
自筆証書遺言や秘密証書遺言でも民法973条の要件そのものは適用されますが、判断能力の一時的な回復という不安定な状態のもとで作成する以上、原本を公証役場が長期間保管し、方式の不備による無効や、紛失・偽造・改ざん・隠匿を防げる公正証書遺言を選ぶケースが実務上は多く見られます。公証人への依頼の流れや必要書類、費用の目安は「公証人 遺言作成」の記事で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
後見人ができること・できないこと|環境を整える役割と越えてはいけない一線

成年後見人自身は遺言の内容を決めたり代筆したりすることはできませんが、本人が自らの意思で遺言を作成できるよう、次のような環境を整える支援は行えます。
- 判断能力が一時的に回復するタイミングを見極めるため、主治医や医療機関と日頃から連携する
- 立ち会いが必要な医師2人以上の手配や、公証役場・司法書士など専門家との事前調整を進める
- 本人が保有する財産の内容(預貯金・不動産・有価証券など)を後見人としての財産管理業務の中で整理し、財産目録として本人が原案を考える材料を提供する
- 作成当日、本人の意思確認や手続きが円滑に進むよう、必要書類(本人確認書類、財産に関する資料の写しなど)を用意する
本人が原案を整理する際は、誰にどの財産をどれだけ渡すかという分け方だけでなく、遺言執行者を誰に指定するか、他の法定相続人が持つ遺留分という最低限の権利を侵害しない内容になっているかといった点も、判断能力が回復した限られた時間の中で確認しておくと、法的に有効で紛争の少ない遺言に仕上がります。一方で、遺言の内容そのものへの誘導や、本人の意思確認をあいまいにしたまま作成を急がせる行為は避けなければなりません。特に成年後見人自身が遺贈を受ける内容の遺言になる場合は、本人の真意にもとづくものであることが強く問われるため、家庭裁判所や後見監督人が選任されている場合はその判断も踏まえ、司法書士など第三者の専門家に事前に相談しておくことをおすすめします。
後見人は遺言の証人や受遺者になれるか
民法974条は、遺言の証人になれない人(欠格事由)として、未成年者、推定相続人・受遺者およびその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族などを挙げています。成年後見人であること自体はこの欠格事由に含まれていないため、後見人が本人の推定相続人や受遺者に該当しなければ、証人(立会人と呼ばれることもあります)を務めることも、財産の遺贈を受ける受遺者として指定されることも、法律上は可能です。
ただし、専門職として選任されている成年後見人が本人から遺贈を受ける内容になっている場合、本人の判断能力が万全とはいえない状況下での利益相反が疑われやすく、家庭裁判所や後見監督人から説明を求められることがあります。実務上は、後見人自身が受遺者になる遺言は避けるか、事前に家庭裁判所・後見監督人へ相談したうえで進めるのが無難です。
判断能力の回復が見込めない場合はどうなるか
判断能力が一時的にも回復する見込みがない場合、成年被後見人は遺言を完成させることができません。この場合、本人の死亡によって遺言のない相続として扱われ、民法が定める法定相続分にしたがって法定相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。相続人の間で分け方について意見が分かれると、協議が長期化したり、紛争として家庭裁判所の調停・審判に発展したりすることもあります。
成年後見人の職務は、本人の死亡(死後)をもって終了します。相続開始後の遺産分割協議や相続登記(不動産の名義変更)、預貯金の払い戻しといった手続きは、後見人ではなく相続人が行うことになる点にも注意してください。
遺言作成にかかる費用の目安

成年被後見人が遺言を作成する場合、通常の遺言作成費用(公証人手数料や証人の日当など)に加えて、判断能力の回復を確認する医師2人以上の診断・立ち会いにかかる費用が別途必要になります。医師の診断料や日当は医療機関ごとに異なり、自由診療扱いとなることが多いため、事前に主治医や医療機関へ確認してください。公証人手数料は財産の価額に応じて全国一律に決まっており、金額の目安は「公証人 遺言作成」「遺言書作成費用相場」の記事で解説しています。
後見人自身への追加の報酬は、遺言作成に立ち会ったこと自体では発生しませんが、後見事務全体の報酬(家庭裁判所が決定)の中で、財産状況の整理などの支援業務が考慮されることはあります。
司法書士に依頼するメリット
成年後見人がいる方の遺言作成は、判断能力の一時的な回復のタイミングの見極め、医師2人以上の手配、公証役場との調整など、通常の遺言よりも段取りが複雑になりがちです。司法書士事務所リーガルステーションでは、次のようなサポートに対応しています。
- 成年後見・保佐・補助の各制度や、本人の判断能力の状況に応じた遺言作成の可否についての相談
- 医師の立ち会いや公証役場との事前調整、必要書類の整理
- 後見人が受遺者になる場合など、利益相反が疑われやすいケースでの進め方の相談
- 相続開始後の遺産分割協議や、相続登記(不動産の名義変更)まで見据えた一貫した対応
地域の司法書士事務所であれば、後見開始から遺言作成、相続開始後の手続きまで、継続して同じ窓口に相談できる点も安心材料になります。
まとめ|成年後見人がいる方の遺言作成に迷ったらご相談ください
成年後見人は、本人に代わって遺言を作成することはできません。遺言は本人だけが行える一身専属の行為であり、後見人の役割はあくまで、本人が自らの意思で遺言を作成できるよう、医師の手配や公証役場との調整といった環境を整えることにとどまります。ご本人(成年被後見人)自身は、判断能力を一時的に回復した時に限り、医師2人以上の立ち会いという特別な要件のもとで遺言を作成できます。
円満な遺産相続につなげ、円滑に手続きを進めるためにも、成年後見人がいるご家族の遺言作成について、進め方や費用に迷った場合は、司法書士事務所リーガルステーションまでお気軽にご相談ください。
