遺言書パソコンで作成できる?|有効な範囲と法改正の動き
「遺言書はパソコンで作成できる?」という疑問について、司法書士事務所リーガルステーションがまとめて解説します。結論からいうと、自筆証書遺言の本文は現在の民法では手書き(自書)が必須で、パソコンだけで作成した本文は無効になります。ただし2019年の法改正により、遺言書に添付する財産目録に限ってはパソコンで作成することが認められています。また、遺言の種類によってはパソコンで作成した本文がそのまま有効になるケースもあります。
高齢や手の不自由などの理由で長文の自書が負担に感じる方や、字の乱れで内容が読み取りにくくなることを心配する方から、パソコンで遺言書を作りたいというご相談は少なくありません。この記事では、遺言の種類ごとにパソコンを使える範囲を整理したうえで、財産目録の作り方の注意点、無理にパソコンだけで作成した場合のリスク、そして今後パソコンやスマートフォンでの作成が広く認められる可能性がある法改正の動きまでを順番に解説します。

結論|遺言書の本文はパソコンで作成できない(財産目録は例外)
民法968条が定める自筆証書遺言の要件は、遺言者本人が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、押印することです。「自書」とは自分の手で書くことを意味するため、パソコンやワープロソフトで作成した文書を印刷しただけの本文は、この要件を満たさず無効になります。手が疲れるからと途中だけパソコンを使ったり、全文をコピー&ペーストで作成したりした場合も同様に無効です。押印に使う印鑑は実印である必要はなく認印でも構いませんが、消えやすいスタンプ印は避けたほうが安心です。
唯一の例外が、遺言書に添付する財産目録です。2018年に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」により自筆証書遺言の方式が緩和され、2019年1月13日以降に作成する財産目録については、自書によらずパソコンで作成したり、通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりする方法が認められるようになりました。ただし財産目録についても、毎ページへの署名・押印は必要です。この点は後述します。なお、家族へのメッセージとして本文に書き添える付言事項は法律上の効力を持ちませんが、この部分も本文の一部として自書が必要です。
遺言の種類によってパソコンを使える範囲が違う

遺言書には主に3種類があり、それぞれパソコンを使える範囲・条件が異なります。「パソコンで遺言書を作りたい」と考える場合は、自筆証書遺言にこだわらず、他の方式もあわせて検討する価値があります。
自筆証書遺言|本文は自書必須、財産目録のみパソコン可
自分1人で手軽に作成できる遺言です。前述のとおり本文は自書が必須で、パソコンで作成できるのは財産目録の部分に限られます。証人や公証人の関与なしに作成でき、費用もかからない反面、様式の不備で無効になったり、自宅で保管すると紛失・改ざんのリスクがあったりする点に注意が必要です。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、こうした保管中のリスクを軽減できます。
公正証書遺言|自分でパソコンを操作せず、公証人が口述内容を筆記する
遺言者が公証役場で遺言の内容を口頭で伝え(口述し)、公証人がその内容を筆記して作成する遺言です。遺言者自身がパソコンで文章を作成するわけではありませんが、公証人が原則としてパソコンで文書を作成するため、結果として遺言者に自書の負担がありません。証人2人以上の立会いが必要で、原本は公証役場に保管されるため紛失・改ざん・偽造のリスクがほとんどなく、家庭裁判所の検認も不要です。専門家に相談しながら作成することが多く、内容の不備による無効リスクが低い方式といえます。
秘密証書遺言|本文をパソコンで作成しても有効(署名だけ自筆)
遺言の内容を誰にも明かさずに作成できる方式で、本文は自書でなくてもよく、パソコンで作成した文書や第三者による代筆でも有効です。ただし遺言者が証書に自分で署名・押印(捺印)したうえで封筒に入れて封印し、公証人1人と証人2人以上の前に封印した証書を提出したうえで、その証書が自分の遺言書であることと筆者の氏名・住所を申述する必要があります。公証人は内容を確認しないため、様式(形式)や内容に不備があっても気づかれず、結果的に無効になる可能性がある点には注意が必要です。また、この方式で作成した遺言書は、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所の検認手続きを経る必要があります。
パソコンで作成できる財産目録の書き方と注意点
自筆証書遺言でパソコンを使って書ける範囲は財産目録に限られますが、書き方にはいくつかの決まりがあります。財産の内容や量に応じて、次のような方法を組み合わせて作成できます。
- エクセルなどの表計算ソフトで作成する(財産の一覧・金額の計算に便利)
- 預貯金は通帳の写し、不動産は登記事項証明書の写し、株式や投資信託などの有価証券は取引残高報告書の写しを添付する
- 財産が少ない場合は自書で作成する
- 自宅にパソコンがない場合や自分で書くのが難しい場合は第三者に代筆してもらう
財産目録をパソコンなど自書以外の方法で作成する場合は、次の点に注意してください。財産目録の雛形は法務局のホームページでも確認できます。
- 遺言書の本文と財産目録は別のページにする
- 財産目録は毎ページ(両面に記載がある場合は両面)に遺言者本人の署名と押印(捺印)をする
- 書き間違いがあった場合は訂正ではなく、そのページを作り直す
- 本文で目録を指定する書き方(「別紙目録記載の不動産」など)と、目録の表題を一致させておく
本文と目録をホチキス等で綴じたり契印を押したりすることは、法律上は必須とされていません。ただし差し替えなどの不正を防ぎ、一体の書類であることを示す意味では、実務上は契印をしておくと安心です。財産目録には、誰にどの相続財産を相続させる、あるいは遺贈するかが明確に分かるように記載し、記載漏れや不明確な表現があると、相続人の間で争いや遺産分割協議のトラブルの原因になることもあります。誰を遺言執行者に指定するかも記載しておくと、相続手続きがスムーズに進みます。特定の相続人の遺留分を侵害する内容になっていないかなど、内容面に不安がある場合は司法書士や、弁護士が所属する法律事務所に確認しておくと安心です。
無理にパソコンだけで作成するとどうなるか

「全文をパソコンで作れば早い」と考えて自筆証書遺言の本文までパソコンで作成してしまうと、方式(形式)不備により遺言そのものが無効になります。無効になると、遺言者が生前に意図していた財産の分け方は実現されず、法定相続分にしたがって相続人全員で遺産分割協議を行うことになり、かえって相続人同士の争いや紛争を招きかねません。
また、たとえ有効な方式で作成できたとしても、自宅で保管する自筆証書遺言や秘密証書遺言には、紛失・改ざん・偽造や、遺言者本人以外がなりすまして作成したのではないかと疑われるリスクが伴います。第三者が遺言者になりすます事態を防ぐ目的もあり、特に秘密証書遺言は公証人が内容を確認しないため、遺言者本人の意思に基づいて作成されたことをあとから証明しにくい場合があります。こうしたリスクを減らす方法として、自筆証書遺言であれば法務局の保管制度を利用する、内容に不安があれば公正証書遺言を選ぶといった選択肢を慎重に検討してください。
法改正の動き|将来はパソコン・スマホでの遺言作成が認められる可能性
遺言の方式は、社会の変化にあわせて見直しが進められています。2018年の法改正で財産目録のパソコン作成が認められて以降も、遺言者本人による自書という原則そのものの見直しが議論されてきました。
2026年1月、遺言制度の見直しを検討していた法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会は、パソコンなどのデジタル機器で遺言書を作成し、そのデジタル・データを法務局が保管する「保管証書遺言」制度の導入などを盛り込む要綱案をまとめました。その後、政府は自筆が義務づけられている遺言について、パソコンやスマートフォンでのデジタル化・作成を認める民法改正案を閣議決定しています。この改正案では、手書きの遺言書についても押印を不要とする方向で検討が進められています。
報道されている案によると、パソコンやスマートフォンで作成した遺言書を保管証書遺言として法務局に預ける際は、なりすましや遺言者の真意に基づかない遺言の作成を防ぐため、遺言者本人が法務局の職員の前で遺言の全文を口述することが求められる見通しです。本人確認を厳格に行う趣旨から、原則として遺言者本人が窓口に出向く必要がありますが、例外として、生命の危機が迫っている場合にスマートフォンでの録音・録画で代える案や、職員が認めた場合に限りウェブ会議を利用できる案も検討されています。
ただし、これらはあくまで法案の段階の内容であり、実際に施行されるのは国会での審議・可決を経てからになります。今後、内容が修正される可能性もあります。本記事の内容は執筆時点の報道等に基づくものであり、実務への影響も含め、実際の制度内容や施行時期は法務省の公式サイトやe-Govのパブリックコメント情報で最新の情報をご確認いただくか、司法書士など専門家にお問い合わせください。
まとめ|パソコンでの遺言書作成に不安があればご相談ください
現在の民法では、自筆証書遺言の本文はパソコンで作成できず、パソコンを使えるのは財産目録に限られます。本文までパソコンで済ませたい場合は、公証人が筆記する公正証書遺言や、本文をパソコンで作成できる秘密証書遺言といった、他の方式を選ぶ必要があります。それぞれの方式にはメリットと注意点があり、財産の内容や相続人との関係によって適した選び方も変わってきます。将来的にはパソコンやスマートフォンでの遺言作成が広く認められる法改正も見込まれていますが、大切な思いを確実に遺すためにも、現時点で確実に有効な遺言書を残すには、既存のルールに沿った作成方法を選ぶことが重要です。どの方式が自分に合っているか迷う場合や、財産目録の書き方、内容面に不安がある場合は、司法書士事務所リーガルステーションまでお気軽にご相談ください。
