
行政書士は遺言書作成で職務上請求書を使える?取得できる戸籍の範囲を解説
「行政書士に遺言書作成を頼んだら、職務上請求書で戸籍を集めてもらえるのだろうか」「職務上請求と検索すると違法という言葉も目にして不安」という方もいらっしゃるかもしれません。結論からお伝えすると、行政書士が遺言書作成の依頼にあわせて職務上請求書を使うこと自体は違法ではありません。ただし、取得できる範囲には明確な決まりがあります。職務上請求書とはどのような制度か、なぜ「違法では」と言われることがあるのか、遺言書作成でどこまで戸籍を集めてもらえるのかを解説します。

結論|行政書士は遺言書作成の依頼で職務上請求書を使えるが、取得範囲は原則「本人」まで

行政書士に遺言書の文案作成を正式に依頼(受任)した場合、担当する行政書士は職務上請求書を使って、依頼者本人の戸籍謄本や住民票を委任状なしに取得できます。これは法律で認められた制度であり、違法な行為ではありません。ただし、行政書士の職務上請求書で取得できるのは、原則として依頼者本人の戸籍にとどまり、他の相続人や第三者の戸籍まで自由に集められるわけではない点には注意が必要です。この範囲を超えて戸籍を集める必要がある場面では、別の手続きが必要になります。
職務上請求書とは|8士業に認められた戸籍謄本・住民票の特例請求制度
職務上請求書とは、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士(個人の行政書士だけでなく行政書士法人も含みます)という8士業(8つの国家資格)が、受任した職務を遂行するために必要な範囲で、本人の同意(委任状)なしに戸籍謄本・除籍謄本・住民票の写し・戸籍の附票といった証明書類を請求できる制度です。通常、本人以外がこれらの証明書を取得するには本人の委任状が必要ですが、士業が業務上どうしても必要とする場面まで一件ごとに委任状を求めると、依頼者・専門家双方の負担が大きくなります。そこで戸籍法・住民基本台帳法上、士業が職務上必要と判断した範囲に限り、専用の請求書式(職務上請求書)を用いて本籍地・住所地の市区町村役場から交付を受けられる権利が認められています。日本行政書士会連合会も「職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則」を定め、行政書士がこの権利をどう使うべきかを具体的に規定しています。
なぜ「違法では」と言われることがあるのか|過去の悪用と現在の防止策
職務上請求書が「違法では」と言われる背景には、過去に一部で悪用があった経緯があります。以前は、本来の受任業務とは無関係に職務上請求書を使って戸籍謄本や住民票を取得し、その書類をそのまま探偵業者などの第三者に渡してしまうケースがあったようです。本人確認や請求目的の確認が不十分だったことが発生原因として指摘され、個人情報が本人の知らないところで調査に使われてしまう問題につながりました。
こうした経緯を受けて、戸籍法は2007年に改正され、請求目的を具体的に明記することが義務付けられるなど要件が厳格化されました。現在も行政書士会では、職務上請求書の購入時に、正当な業務にのみ使用する旨の誓約書、使用済みの職務上請求書の提出、職務上請求に関する研修の修了証の添付を求めており、請求書自体にも利用目的や受任している事件・業務の内容を具体的に記載する必要があります。嘘の目的を記載したり不正な手段で交付を受けたりした場合は、罰金などの制裁や行政書士としての処分の対象になります。したがって、正規の手続きに沿って発行された職務上請求書を、実際に受任した遺言書作成業務の範囲内で使う限りは、違法にはなりません。
遺言書作成で行政書士が使える範囲|取得できる権限は依頼者本人にとどまる

行政書士として遺言書作成のご依頼を受任した場合でも、職務上請求書で取得できる権限の範囲は、原則として依頼者本人の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本・戸籍の附票・住民票の写しと、配偶者や父母・祖父母といった直系尊属、子・孫といった直系卑属など、本人と直接の身分関係にある戸籍までです。相続人の範囲を確定するために必要な、それ以外の第三者(将来の相続人候補や疎遠な親族など)の戸籍まで、遺言書作成の段階で自由に取得できる権限はありません。
遺言者本人の戸籍・住民票を確認する場面
遺言書の内容を正確に作成するには、まず依頼者本人(遺言者)の出生から現在までの戸籍をたどり、婚姻歴や子の有無、直系尊属・直系卑属・配偶者といった法定相続人の範囲や、預貯金・不動産などの相続財産を正しく把握しておく必要があります。行政書士は、この依頼者本人にかかわる戸籍謄本・住民票の写しを職務上請求書で取得し、財産目録や遺言内容の文案作成に活かします。相続税の試算が必要になりそうな場合は、税理士へ取り次いでもらえるかどうかも確認しておくと安心です。
他の相続人・第三者の戸籍が必要な場合の注意点
疎遠になっている相続人の所在確認や、相続人全員が参加する遺産分割協議書の作成に必要な戸籍集めなど、依頼者本人以外の戸籍・戸籍の附票が必要になる場面もあります。しかし、これは遺言書作成そのものというより、被相続人の死亡後に相続人を確定する相続手続きの領域であり、原則として遺言書作成段階の職務上請求では対応できません。実際、司法書士であれば相続登記や相続放棄の申述に必要な範囲で、行政書士であれば相続関係説明図や遺産分割協議書の作成に必要な範囲で、というように、資格ごとに職務上請求が認められる業務範囲も異なります。職務上請求は法令上万能ではなく、認められた範囲を超えて使うことはできません。こうした場面では、遺言執行者としてあらためて受任する、または本人から委任状を得るなど、別の法的根拠に基づいて対応することになります。範囲を超えた戸籍取得を安易に引き受ける事務所は、かえって注意が必要です。
職務上請求書を使うための前提|正当な受任関係と目的の明示
職務上請求書は、誰でも自由に使える書類ではありません。行政書士が依頼者との間で遺言書作成について正式な受任関係(契約)を結んでいることが前提であり、請求書には受任している業務の内容や利用目的を偽りなく記載する義務があります。実際に受任した業務の範囲を超えて戸籍を取得したり、業務と関係のない目的で使用したりすれば、行政書士法違反として懲戒処分や資格の取消しといった重い処分の対象になります。依頼者にとっても、正式な依頼を行い、業務範囲を理解したうえで進めることが、安心して任せるための前提になります。
依頼先を選ぶときに確認しておきたいこと

行政書士に遺言書作成や遺産相続の相談、職務上請求をあわせて任せる際は、次の点を確認しておくと安心です。
- 職務上請求書の利用ルール(誓約書・研修修了証の添付等)を理解し、適切に運用しているか
- 報酬や費用の内訳を契約前に明確に説明してくれるか
- 相続税や不動産の相続登記など、業務範囲を超える内容が生じた場合に税理士・司法書士と連携できる体制があるか
なお、司法書士法上司法書士の業務とされる不動産の相続登記(名義変更)は、行政書士が単独で行うことができないため、不動産を含む相続や公正証書遺言の手続きまで見据える場合は、登記実務にも精通した司法書士への相談、または行政書士と司法書士が連携できる事務所を選ぶことも選択肢のひとつです。自筆証書遺言・公正証書遺言のどちらを選ぶかによっても必要な手続きが変わるため、あわせて相談しておくとよいでしょう。
まとめ|制度を正しく理解した上で安心して相談を
行政書士が遺言書作成の依頼にあわせて職務上請求書を使うこと自体は違法ではなく、正当な受任関係のもとで依頼者本人の戸籍を取得する範囲であれば問題ありません。ただし取得できる範囲は本人にとどまり、過去に悪用があった経緯から運用も厳格化されています。職務上請求の範囲や、遺言書作成後の相続登記まで見据えた対応が可能かどうかは、依頼前に事務所へ確認しておくと安心です。なお、個別の事情によって判断が分かれる場合もあるため、詳細は行政書士会や司法書士・弁護士等の専門家にも確認しながら進めることをおすすめします。
