自筆で遺言書を作成するメリット・デメリット|公正証書遺言との違いと選び方
「遺言書作成 自筆」と調べてこの記事に来た方の多くは、自分で書く自筆証書遺言と、公証人に作成してもらう公正証書遺言のどちらを選ぶべきか迷っています。結論からお伝えすると、自筆証書遺言は証人も公証人も介さずに今日から書き始められる手軽さが最大の利点ですが、様式を一つでも誤ると無効になるという厳しさも併せ持っています。この記事では、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを費用・証人・保管・無効リスクの観点から比較し、自筆での作成が向いている人の特徴と、公正証書遺言への切り替えを検討すべきタイミングを、司法書士事務所リーガルステーションが解説します。

結論|自筆は手軽さ、公正証書は確実さで選ぶ

自筆証書遺言と公正証書遺言は、どちらも民法に定められた正式な遺言書であり、法的な効力に優劣はありません。両者の違いは、作成のしやすさと、将来無効と判断されるリスクのどちらを重視するかという点に集約されます。財産の種類が少なく、内容が比較的単純で、今すぐ書き始めたい方には自筆証書遺言が向いています。一方、財産の金額が大きい方や、相続人同士の争いを避けたい方、自書が難しい方には、公証人が内容を確認しながら作成する公正証書遺言のほうが安心です。
どちらか迷う場合は、まず自筆証書遺言で下書きを作り、内容を司法書士など専門家に確認してもらったうえで、公正証書遺言に切り替えるという進め方も選べます。
自筆証書遺言と公正証書遺言、何が違うのか

両者の違いを、実際に迷う場面が多い4つの観点で比較します。
作成の手間と費用の違い
自筆証書遺言は、紙とペンがあれば費用をかけずにいつでも作成できます。財産目録の部分はパソコンでの作成や、預金通帳・登記事項証明書(登記簿)のコピーの添付が認められていますが、本文そのものは全文を自分の手で手書きする必要があります。これに対し公正証書遺言は、公証役場で公証人に手数料を支払って作成してもらう方法で、財産額に応じた手数料がかかり、証人2人以上の立会いも必要になります。本人確認のために運転免許証や印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票、不動産の固定資産評価証明書などの提出を求められることもあり、準備に一定の時間と費用がかかります。
証人・公証人の有無による信頼性の違い
自筆証書遺言は証人も公証人も不要で、遺言の内容を誰にも知られずに作成できます。一方、公正証書遺言は公証人が遺言者本人の意思を確認しながら作成するため、遺言者の判断能力や意思決定の経緯について後から疑いを持たれにくいという利点があります。相続人の間で遺言の有効性が争われやすいと予想される場合は、この信頼性の違いが選択の分かれ目になります。
無効になるリスクの違い
自筆証書遺言は、日付を「〇月吉日」のように特定できない書き方にしたり、氏名の署名や押印を忘れたりするなど、様式面の小さなミスがそのまま無効の原因になります。公正証書遺言は公証人が様式を確認しながら作成するため、様式不備による無効のおそれはほとんどありません。自筆証書遺言で無効になりやすい具体的な失敗例と対処法は、このあと詳しく解説します。
秘密証書遺言という第三の方法もある
遺言の内容を誰にも知られたくないが、存在だけは公証人に証明してほしいという場合は、秘密証書遺言という方法もあります。本文は自書でなくても構いませんが、公証人1人と証人2人以上の前で封印した遺言書を提出する必要があり、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所の検認も必要です。利用件数は少なく、実務上は自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかを選ぶケースがほとんどです。
自筆での作成が向いている人の特徴
次のような方は、自筆証書遺言での作成が向いています。
- 渡したい財産の種類や相手がすでに明確で、内容が複雑ではない方
- 費用をかけずに、まずは自分の意思を形に残しておきたい方
- 現時点で健康上の問題がなく、長文を自分の手で書くことに支障がない方
- 内容を誰にも知られずに作成したい方
- 家族へのメッセージを「付言事項」として書き添えたい方
公正証書遺言への切り替えを検討すべきケース
次のいずれかに当てはまる場合は、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言、あるいは専門家に相談したうえでの作成を検討したほうが安心です。
- 不動産や預貯金、株式など証券会社に預けている金融資産の種類・金額が多く、目録に地番・家屋番号・口座番号まで正確に記載するのが大変な方
- 法定相続人以外の人(内縁の配偶者や、お世話になった知人などの受遺者)に財産を遺贈したい方
- 特定の相続人(推定相続人)が主張できる遺留分を侵害する内容になりそうな方(遺留分は配偶者・子・直系尊属に認められ、兄弟姉妹にはありません)
- 生前に受けた贈与(特別受益)の持ち戻しを免除したいなど、遺産分割に条件を付けたい方
- 相続人の廃除など、相続権そのものにかかわる内容を含めたい方
- 未成年の子に財産を遺すにあたり、未成年後見人も併せて指定したい方
- 財産の金額が大きく、相続税の計算もあわせて専門家に相談したい方
- 生命保険の受取人の変更など、遺言執行者による手続きが必要な内容を含めたい方
- 推定相続人同士の話し合いが難航しそうで、円満な遺産分割にしたい方
- 病気やけがで長文を自書することが難しい方
これらに当てはまる方が自筆証書遺言で作成すると、本文の記載だけでは意図した内容が実現できなかったり、相続人の間でのちに争いが生じたりするおそれがあります。該当する場合は、作成の段階から司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
自筆で作成する場合に無効になりやすい失敗

自筆証書遺言は、全文の自書・日付の自書・氏名の自書・押印という4つの要件をひとつでも欠くと、遺言全体が無効になります。特につまずきやすいのが、日付を「吉日」のようにあいまいに書いてしまうケース、財産目録以外の部分を代筆やパソコンで作成してしまうケース、シャチハタなど消えやすい印で押印してしまうケースです。押印は実印である必要はなく認印でも構いませんが、消えやすい印は避けたほうが安心です。用紙の大きさ(A4サイズなど)や縦書き・横書きは自由に選べますが、こうした様式面のルールは必ず守る必要があります。不動産の地番・家屋番号を書き間違えると、相続開始後の名義変更の手続きで支障が出ることもあります。書き間違えたときは厳格な訂正の方式を守るか、最初から書き直すほうが無効になるリスクを避けやすく確実です。要件の詳しい内容と、財産の種類ごとの具体的な書き方の文例、訂正の正しい方式は、別記事「自筆証書遺言の書き方|4つの要件と財産ごとの文例」で確認できます。
自宅保管のリスクと法務局の自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言は原則として自分で保管しますが、自宅で保管すると紛失や、相続人の誰かによる偽造・改ざん・隠匿のおそれが残ります。せっかく書いた遺言書が発見されないまま相続手続きが進んでしまうこともあります。
こうしたリスクを減らす方法として、法務局の自筆証書遺言書保管制度があります。令和2年(2020年)7月10日から始まったこの制度では、遺言者の住所地・本籍地、または所有する不動産の所在地を管轄する法務局(遺言書保管所)に原本と画像データを保管してもらえます。紛失・改ざんの心配がなくなるほか、遺言者の死後にあらかじめ指定した相手へ保管の事実が通知される仕組みもあり、家族に遺言書の存在を伝える手段としても有効です。保管制度を利用した場合は、家庭裁判所での検認も不要になります。具体的な申請の手続きは、別記事「遺言書を自分で作成し法務局に預ける方法」で解説していますので、手続きの詳細は法務省のホームページとあわせてご確認ください。
なお、令和6年(2024年)4月からは相続登記の申請も義務化されています。不動産を相続させる記載がある方は、登記事項証明書(登記簿)の内容を正確に書き写しておくことが、相続開始後の手続きをスムーズにする意味でも重要になっています。
保管制度を使わない場合に必要な検認の手続き
法務局の保管制度を利用しない自筆証書遺言は、遺言者が亡くなった後、相続人が家庭裁判所へ検認を申し立てる必要があります。検認は遺言書の様式や状態を確認する手続きであり、内容の有効性そのものを判断するものではありません。封印されている遺言書を家庭裁判所外で勝手に開封すると、罰則の対象になることがあるため注意が必要です。遺言書が本人の知らないところで書き換えられたのではないかと疑われる場合の対応は、別記事「遺言書を勝手に作成された疑いがあるときの対応」で解説しています。
遺言書は生前であれば何度でも撤回・書き換えができる

自筆証書遺言・公正証書遺言のどちらであっても、遺言者が生前であれば何度でも新しい遺言書を作成して、前の内容を撤回・書き換えることができます。民法では、内容が抵触する部分について、日付が後になる遺言が優先すると定められています。結婚や離婚、子の出生、財産状況の変化があったときは、そのタイミングで内容を見直すとよいでしょう。自筆証書遺言は書き換えのたびに新しい用紙に書き直す必要があり、保管や管理が煩雑になりやすい一方、公正証書遺言は公証役場に作成記録が残るため、変更の経緯を確認しやすいという考え方もあります。見直しの機会が多いと想定される方は、この点もあわせて検討してください。
まとめ|自筆か公正証書か迷ったら専門家に相談する
自筆証書遺言は、証人も公証人も不要で今日から書き始められる手軽さが利点ですが、様式のミスがそのまま無効につながる厳しさも併せ持っています。財産の内容が複雑な方、相続人同士の争いを避けたい方は、公正証書遺言への切り替えや、作成段階からの専門家への相談を検討してください。自筆で作成する場合も、書き終えたら自宅保管のリスクを踏まえ、法務局の保管制度の利用をあわせて検討することをおすすめします。遺言書作成は遺産相続のトラブルを防ぐための備えです。どちらの方法を選ぶべきか迷っている方は、司法書士事務所リーガルステーションまで、お気軽にご相談ください。
